1-2 物理でよく使う関数の微分道具はもう揃っている。あとは当てはめるだけ

1-1 で、微分の定義と「定義から公式を作る手続き」を用意しました。差分商を書き、変形して \(h\) を約分し、\(h\to0\) とする——やることは、それだけです。

この記事では、その手続きを物理でよく出てくる関数に当てはめていきます。三角関数、指数関数、対数関数。そして、それらを組み合わせた関数を微分するための規則(積の微分と連鎖律)まで進みます。

関数ごとに違うのは、\(h\) を引き剥がす一手だけです。三角関数なら加法定理、指数関数なら指数法則、対数関数なら逆関数の関係が、その役を担います。骨格はすべて同じ——それが見えると、公式表は覚えるものではなくなります。

前提は 1-1 の内容と、高校で習う三角関数(定義と加法定理)・指数と対数の基本性質です。読み方も 1-1 と同じで、解答は閉じたまま、紙で挑戦してください。

§01

三角関数と弧度法

振動・波・回転を扱う物理にとって、三角関数は主役です。そして \((\sin x)'=\cos x\) という見慣れた公式には、ある隠れた前提があります。それを暴くのがこの節の裏テーマです。

まず:ラジアン(rad)とは何か

角度の測り方には、度(°)とラジアン(rad)の2通りがあります。度は「一周を360等分する」という人間の決めごとですが、ラジアンは円の形そのものから決まります。

半径 \(r\) の円で、長さ \(s\) の弧を切り取る中心角の大きさを \(\theta=\dfrac{s}{r}\) [rad] と定める。

この式を \(s\) について解き直すと

\[ s=r\theta \]

——弧の長さが「半径 × 角度」で出る。これがラジアンの最大の利点です。さらに、半径 \(r\)・中心角 \(\theta\) の扇形の面積を \(A\) とすると

\[ A=\frac{\text{弧長 }s\times\text{半径 }r}{2}=\frac{(r\theta)\cdot r}{2}=\frac12 r^2\theta \]

と書けます(扇形を、底辺が弧 \(s\)・高さが半径 \(r\) の三角形だと思えば納得できます)。この簡潔さが、次に使う基本の極限を生みます。

θ O A P r r s θ [rad] = s ÷ r s = r θ (弧長 = 半径 × 角度) s = r のとき θ = 1 rad 1 rad ≈ 57.3° 一周は s = 2πr → 2π rad = 360°
ラジアンは「弧の長さを半径で割った値」で角度を測る方法です。半径と同じ長さの弧(\(s=r\))に対応する角が 1 rad で、度に直すと約 57.3°。一周は弧長が \(2\pi r\) なので \(2\pi\) rad = 360° です。長さ÷長さなので本来は無次元量で、単位 rad は「この数は角度だ」と示す目印にすぎません。だから \(\sin\theta\) の \(\theta\) にラジアンの値をそのまま入れられます。
必要な基本の極限 \[ \lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta}=1 \]

ただし \(\theta\) はラジアンで測ったとき。これさえ認めれば、三角関数の微分はすべて機械的に出ます。まずはこの極限を、上で確認した扇形の面積を使って自分で確かめます。

θ O A P T sin θ tan θ 半径 1 面積を比べる △OAP = ½ sin θ 扇形OAP = ½ θ △OAT = ½ tan θ △OAP < 扇形 < △OAT → cos θ < sin θ / θ < 1
半径1の円で、三角形 OAP・扇形 OAP・三角形 OAT はこの順に含まれているので、面積にも同じ順の不等式が成り立ちます。半径が1なので扇形の面積は \(A=\frac12r^2\theta=\frac{\theta}{2}\)——ラジアンで測っているからこそ、角度そのものが面積として式に入ってきます
まず自力で ① 基本の極限を確かめる

上の図の面積比較

\[ \frac12\sin\theta<\frac12\theta<\frac12\tan\theta\qquad(0<\theta<\pi/2) \]

から \(\cos\theta<\dfrac{\sin\theta}{\theta}<1\) を導き、挟み撃ちの原理で \(\displaystyle\lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta}=1\) を示してください。\(\theta<0\) の場合も扱えることを述べること。

HINT 1

まず各辺を \(\frac12\sin\theta\ (>0)\) で割ってみてください。求めたい \(\dfrac{\sin\theta}{\theta}\) の逆数が出てきます。

HINT 2

逆数をとると不等号の向きが変わります。\(\theta<0\) については、\(\dfrac{\sin\theta}{\theta}\) が偶関数かどうかを調べてください。

各辺を \(\frac12\sin\theta\ (>0)\) で割ると

\[ 1<\frac{\theta}{\sin\theta}<\frac{1}{\cos\theta} \]

逆数をとると不等号の向きが変わり

\[ \cos\theta<\frac{\sin\theta}{\theta}<1 \]

\(\theta\to+0\) で左辺 \(\to1\)、右辺は 1。よって挟み撃ちの原理から \(\sin\theta/\theta\to1\)。

\(\theta<0\):\(\dfrac{\sin(-\theta)}{-\theta}=\dfrac{-\sin\theta}{-\theta}=\dfrac{\sin\theta}{\theta}\) と偶関数なので、負側からの極限も同じ値。したがって両側極限として 1 ✓。

この結果は「\(\theta\) が小さければ \(\sin\theta\simeq\theta\)」と読めます。単振り子の運動が簡単な形になるのはこの近似のおかげで、3章で近似の話として本格的に扱います。

まず自力で ② もう一つの極限

①の結果だけを使って、次の極限を求めてください。

\[ \lim_{h\to0}\frac{\cos h-1}{h} \]

この形は、次に \((\sin x)'\) を計算するときに必ず出てきます。先に片付けておきます。

HINT 1

\(\cos h-1\) のままでは \(\sin\) が出てきません。分子・分母に \(\cos h+1\) を掛けてみてください(平方根の有理化と同じ発想)。

HINT 2

\(\cos^2h-1=-\sin^2h\) です。これで \(\dfrac{\sin h}{h}\) の形が作れます。

分子・分母に \(\cos h+1\) を掛けます。

\[ \frac{\cos h-1}{h}=\frac{(\cos h-1)(\cos h+1)}{h(\cos h+1)}=\frac{\cos^2h-1}{h(\cos h+1)}=-\frac{\sin h}{h}\cdot\frac{\sin h}{\cos h+1} \]

\(h\to0\) で、①より \(\dfrac{\sin h}{h}\to1\)、また \(\dfrac{\sin h}{\cos h+1}\to\dfrac{0}{2}=0\)。よって

\[ \lim_{h\to0}\frac{\cos h-1}{h}=0 \]

\(\sin\theta\simeq\theta\)(1次)に対して、\(\cos\theta\) は \(1\) からのズレが \(\theta^2\) の程度しかない、という意味です。だから \(h\) で割っても 0 に落ちます。この違いは3章で \(\cos\theta\simeq1-\frac{\theta^2}{2}\) として再登場します。

まず自力で ③ \(\sin x\) を微分する

①②で用意した2つの極限を道具として、加法定理

\[ \sin(x+h)=\sin x\cos h+\cos x\sin h \]

を使い、定義から \((\sin x)'\) を導いてください。

HINT 1

差分商の分子に加法定理を代入し、\(\sin x\) でくくれる部分と \(\cos x\) でくくれる部分に整理してください。①②で求めた極限がそのまま現れます。

1加法定理で分子をほぐす
なぜ:\(\sin(x+h)\) のままでは \(h\) を分離できない。加法定理は「\(x\) の部分と \(h\) の部分を引き剥がす」ための道具です。
\[ \frac{\sin(x+h)-\sin x}{h}=\frac{\sin x\cos h+\cos x\sin h-\sin x}{h} =\sin x\cdot\frac{\cos h-1}{h}+\cos x\cdot\frac{\sin h}{h} \]

\(\sin x\) と \(\cos x\) は \(h\) を含まないので、極限をとるときは定数として扱えます。

2用意した極限を入れる
なぜ:残った2つの因子は、まさに①②で求めた極限そのものです。
\[ (\sin x)'=\sin x\cdot \underbrace{0}_{②}+\cos x\cdot \underbrace{1}_{①}=\boxed{\cos x} \]

同じ手順(\(\cos(x+h)=\cos x\cos h-\sin x\sin h\))で

\[ (\cos x)'=-\sin x \]
3検算する
なぜ:グラフと符号が合うか見る。

\(x=0\) で \(\sin\) は増加中 → \((\sin)'=\cos 0=1>0\) ✓。\(x=\pi/2\) で \(\sin\) は頂点 → \(\cos(\pi/2)=0\) ✓(頂点では傾きが 0)。

なぜ物理では必ずラジアンなのか

ここまでの導出は \(\sin h/h\to1\) に全面的に依存していて、それは扇形の面積が \(\theta/2\) と書けること——つまりラジアン——に依存していました。角度を度で測ると \(\theta^{\circ}=\frac{\pi}{180}\theta_{\rm rad}\) なので

\[ \lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta^{\circ}}{\theta^{\circ}}=\frac{\pi}{180},\qquad \frac{d}{d\theta}\sin\theta^{\circ}=\frac{\pi}{180}\cos\theta^{\circ} \]

となり、微分するたびに \(\pi/180\) という係数が湧いてきます。2回微分すれば \((\pi/180)^2\)、3回なら \((\pi/180)^3\)。式を変形するほど余計な数が積み重なって、まともに扱えません。

ラジアンは「便利だから」採用されているのではなく、微分が最も簡単な形になる唯一の角度の測り方だから採用されています。「弧長÷半径」という定義が扇形面積 \(\frac12r^2\theta\) の簡潔さを生み、それが \(\sin h/h\to1\) を生み、そこから \((\sin x)'=\cos x\) が出る——この鎖の出発点が、角度の測り方そのものだったわけです。

計算ドリル(§01・全2問)

問1加法定理

\[ \cos(x+h)=\cos x\cos h-\sin x\sin h \]

を使って、定義に従って \((\cos x)'=-\sin x\) を自分で導け。使う極限は ①② と同じ2つだけ。

自分の答えを出してから
\[ \frac{\cos(x+h)-\cos x}{h}=\frac{\cos x\cos h-\sin x\sin h-\cos x}{h}=\cos x\cdot\frac{\cos h-1}{h}-\sin x\cdot\frac{\sin h}{h} \]

\(h\to0\) で \(\cos x\cdot0-\sin x\cdot1=-\sin x\) ✓。

4回微分すると元に戻ります:\(\sin\to\cos\to-\sin\to-\cos\to\sin\)。「2回微分すると符号が反転して自分に戻る」という性質、すなわち \(f''=-f\) こそが、三角関数が振動を記述する理由そのものです(§05 問1)。

問2\(\sin\theta\simeq\theta\) の近似は、実用上どこまで許されるか。\(\theta=5^\circ,\,10^\circ,\,30^\circ\) について \(\sin\theta\) と \(\theta_{\rm rad}\) の相対誤差を計算せよ。

自分の答えを出してから
\(\theta\)\(\theta_{\rm rad}\)\(\sin\theta\)相対誤差
\(5^\circ\)0.08730.08720.13 %
\(10^\circ\)0.17450.17360.51 %
\(30^\circ\)0.52360.50004.7 %

誤差はおよそ \(\theta^2/6\) で増えます(\(\sin\theta=\theta-\theta^3/6+\cdots\) だから)。実験で振り子の周期を 1 % の精度で測るなら振幅は \(15^\circ\) 程度まで、といった判断がこの表からできます。「近似してよいか」を自分で判定できることが、物理で近似を使う資格です。3章のテーマそのものです。

§02

指数関数と \(e\) の正体

\(e=2.71828\cdots\) を「そういう定数がある」と丸暗記した人は多いと思います。しかし \(e\) は発見された不思議な数ではなく、ある要求を満たすように逆算して決められた数です。その要求とは「微分しても形が変わらない関数がほしい」。

準備:指数関数の「底」と \(\log\)・\(\ln\)

底(てい)とは、\(a^x\) の \(a\) のこと。「1 増えるごとに何倍になるか」を決める数です。\(2^x\) なら \(x\) が 1 増えるたびに 2 倍、\(10^x\) なら 10 倍。肩に乗っている \(x\) を指数と呼びます。底は \(a>0\) とします(負の数だと \(a^{1/2}\) が実数にならないため)。

対数は、この関係を逆から見たものです。

\[ a^y=x \quad\Longleftrightarrow\quad y=\log_a x \]

つまり \(\log_a x\) は「\(x\) は \(a\) を何乗した数か」を表します。\(\log_2 8=3\)(\(2^3=8\) だから)。

底が \(e\) の対数を自然対数といい、\(\ln\) と略記します。

\[ \ln x\;\equiv\;\log_e x \]

本文で \(\ln\) が出てきたら「底が \(e\) の対数」と読んでください。物理や数学では底が \(e\) の場合が圧倒的に多いので、単に \(\log x\) と書いて自然対数を指すこともあります。\(\ln\) が持つ意味は §03 で扱うので、いまは記号として受け取って構いません。

まず自力で

この節の山場は2ステップだけです。

①定義に従って \(f(x)=a^x\)(\(a>0\))を微分し、\(a^x\) 自身をくくり出してください。残る極限は \(x\) に依存しないはずです。
②その残った極限がちょうど 1 になるように \(a\) を選ぶとしたら、その \(a\) はどんな数になるでしょうか。

HINT 1

指数法則 \(a^{x+h}=a^x\cdot a^h\)。これで \(a^x\) が分子から丸ごとくくり出せます。

HINT 2

②残った極限は \(\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{a^h-1}{h}\)。これを 1 とおくと、小さい \(h\) に対して \(a^h\simeq1+h\)。両辺を \(1/h\) 乗してみてください。

1指数法則で \(a^x\) をくくり出す
なぜ:指数関数の決定的な性質は「和が積になる」こと。これが \(x\) と \(h\) の分離を可能にします(三角関数における加法定理と同じ役割)。
\[ \frac{a^{x+h}-a^x}{h}=\frac{a^x(a^h-1)}{h}=a^x\cdot\frac{a^h-1}{h} \]

つまり

\[ (a^x)'=a^x\cdot C_a,\qquad C_a\equiv\lim_{h\to0}\frac{a^h-1}{h} \]

ここが山場です:\(C_a\) は \(x\) を含まない、\(a\) だけで決まる定数。つまりどんな底の指数関数も、微分すると自分自身の定数倍になる。指数関数はこの性質を持つ唯一の関数族です。

2\(C_a=1\) となる \(a\) を \(e\) と名づける
なぜ:\(C_a\) は余計な係数。これが 1 になる底を選べば、式が最も簡単になります。\(a=1\) なら \(a^h-1=0\) なので \(C_1=0\)。\(a\) を大きくすれば \(a^h-1\) も大きくなるので \(C_a\) は連続に増えていきます。実際に \(a=2\) では 1 より小さく、\(a=3\) では 1 より大きいので、その間に \(C_a=1\) となる \(a\) が必ず存在します。
\[ \boxed{\;e\ \equiv\ \Big(\lim_{h\to0}\frac{a^h-1}{h}=1\ \text{となる }a\Big)\quad\Longrightarrow\quad (e^x)'=e^x\;} \]

この \(e\) が「点 \((0,1)\) での傾きが 1 になる底」だということは、グラフで見ると分かりやすいです。

x y 1 1 y = 3 ᴺ y = e ᴺ y = 2 ᴺ y = 1 + x x = 0 での傾き 2 ᴺ … 1 より小さい e ᴺ … ちょうど 1 3 ᴺ … 1 より大きい
底を変えると曲線の立ち上がり方が変わります。どの曲線も \((0,1)\) を通りますが、そこでの傾きは底によって違い、\(2^x\) では 1 より小さく、\(3^x\) では 1 より大きい。その境目、つまり点 \((0,1)\) で傾きがちょうど 1 になる底が \(e\) です(破線が傾き 1 の直線 \(y=1+x\))。\((e^x)'=e^x\) は、この図で言えば「どの点でも、接線の傾きがその点の高さと等しい」という意味になります。

数値としての \(e\) を取り出す

\(e\) は「性質」で定義したので、具体的な数値は逆算する必要があります。定義の式 \(\dfrac{e^h-1}{h}\simeq1\) を変形すると \(e^h\simeq1+h\) となり、両辺を \(1/h\) 乗して \(h=1/n\) と置けば

\[ e=\lim_{h\to0}(1+h)^{1/h}=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac1n\right)^n=2.71828\cdots \]

実際に計算すると、次のように近づいていきます。

\(n\)101001000\(\to\infty\)
\(\left(1+\frac1n\right)^n\)2.59372.70482.71692.71828…

収束は意外と遅く、\(n=1000\) でも3桁目までしか合いません。\(e\) は \(\pi\) と同じく無理数で、小数で書き切ることはできません。

定義の順番に注意

高校では \(\left(1+\frac1n\right)^n\) の極限を「\(e\) の定義」として教わることが多いのですが、論理の順番としてはこちらが結果です。本質は「微分しても形が変わらない関数を作りたい」という要求のほうにあり、\(2.71828\cdots\) という数値はその要求から逆算して出てきた副産物にすぎません。

一般の底に戻す — 係数 \(C_a\) の正体

ステップ1で出てきた係数

\[ C_a=\lim_{h\to0}\frac{a^h-1}{h} \]

は、まだ「底 \(a\) で決まる何かの数」としか言えていません。\(e\) が手に入ったので、ここでその正体を突き止めます。

鍵は、どんな正の数も \(e\) の何乗かで書けることです。「\(a\) は \(e\) を何乗した数か」という問いの答えが、まさに \(\ln a\) でした(節の冒頭の対数の定義)。つまり

\[ a=e^{\ln a} \]

たとえば \(2=e^{\ln 2}\)、\(10=e^{\ln 10}\)。これを \(a^x\) に代入すると、指数法則 \(\left(e^{p}\right)^{x}=e^{px}\) より

\[ a^x=\left(e^{\ln a}\right)^x=e^{x\ln a} \]

——底が何であっても、指数関数は「\(e\) の肩に定数 \(\ln a\) を掛けたもの」に書き換えられるわけです。あとは \(e^{kx}\) という形(\(k\) は定数)を微分すればよく、その結果は

\[ \left(e^{kx}\right)'=k\,e^{kx} \]

——肩に乗っていた定数 \(k\) が前に出てきます。この一手は連鎖律なので §04 で正式に扱いますが、\(k=\ln a\) として使えば

\[ (a^x)'=\ln a\cdot e^{x\ln a}=a^x\ln a \]

ステップ1の結果 \((a^x)'=a^x\cdot C_a\) と見比べれば

\[ \boxed{\;C_a=\ln a\;} \]

正体不明だった極限は、対数だったのです。

検算しておきます。\(a=e\) なら \(\ln e=1\) なので \((e^x)'=e^x\) ✓。\(a=1\) なら \(\ln 1=0\) で微分は 0——定数関数 \(1^x=1\) だから当然 ✓。\(a>1\) なら \(\ln a>0\) で増加関数、\(0<a<1\) なら \(\ln a<0\) で減少関数 ✓。

この結果は裏返すと「\(e\) 以外の底を使うと、微分のたびに \(\ln a\) という余計な係数が付いてまわる」という意味になります。§01 のラジアンにおける \(\pi/180\) とまったく同じ構図で、\(e\) は余計な係数が出ない唯一の底。物理で底が \(e\) ばかり出てくる理由がこれです。

なぜ物理に指数関数があふれているのか

自然界には、「変わる速さが、いまある量に比例する」という状況が驚くほど多く現れます。

  • 放射性崩壊:一定時間に崩壊する原子核の数は、いま残っている数に比例する。残りが半分になれば、崩壊する数も半分になる
  • コンデンサーの放電:流れ出る電流は、いま溜まっている電荷に比例する
  • 空気抵抗による減速:抵抗力が速度に比例するとき、減速の勢いは速度に比例する
  • 大気の圧力:少し高く上がったときの圧力の減り方は、その高さでの圧力に比例する

どれも「いま多ければ、その分だけ速く変わる」という同じ構造です。これを式に書き下すと、量を \(f\)、時刻を \(t\) として

\[ \frac{df}{dt}=k\,f \]

となります。\(k\) は比例定数——比例の強さを表す係数で、現象ごとに実験で決まる数です。増えていく現象なら \(k>0\)、減っていく現象なら \(k<0\) です(文献によっては \(k\) 以外の記号で書かれますが、役割は同じです)。

この式には未知の関数 \(f\) とその微分が同時に入っています。こういう方程式を微分方程式と呼びます。

そして \(\left(e^{kt}\right)'=k\,e^{kt}\)、つまり「微分すると自分自身の \(k\) 倍になる」——これはまさに上の方程式が要求している性質そのものです。だから

\[ f(t)=f_0\,e^{kt}\qquad(f_0\ \text{は}\ t=0\ \text{での値}) \]

が解になります。指数関数は、この構造に対する唯一の答えです。微分方程式としてきちんと解く手続きは5章で扱います。

計算ドリル(§02・全1問)

問1\(y=e^{-\lambda t}\)(\(\lambda\) は正の定数)を \(t\) で微分し、\(\dfrac{dy}{dt}=-\lambda y\) を満たすことを確かめよ。連鎖律(§04)を知らなくても、\(e^{-\lambda t}=(e^{-\lambda})^t\) と見れば導出のステップ4だけで解ける。

自分の答えを出してから

底を \(a=e^{-\lambda}\) と見れば \(y=a^t\) の形です。このとき \(\ln a=\ln e^{-\lambda}=-\lambda\)(\(e\) を \(-\lambda\) 乗した数だから)。よって \((a^t)'=a^t\ln a\) より

\[ \frac{dy}{dt}=a^t\ln a=-\lambda e^{-\lambda t}=-\lambda y\quad ✓ \]

これが放射性崩壊 \(\dot N=-\lambda N\)、すなわち「減る速さが、いまある量に比例する」という関係の解です。半減期 \(T_{1/2}\) は \(e^{-\lambda T_{1/2}}=\frac12\) を満たす時刻なので \(T_{1/2}=\dfrac{\ln 2}{\lambda}\)。半減期の式に \(\ln\) が現れるのは、指数関数の微分と同じ根っこです。

§03

対数関数

対数は指数の逆関数なので、微分も「逆」から出せます。定義に戻る道(\(\lim\frac{\ln(1+h/x)}{h}\))もありますが、ここでは逆関数の微分という、物理でも頻繁に使う筋を採ります。

結果 \[ (\ln x)'=\frac1x\qquad(x>0) \]

物理・数学では自然対数 \(\ln=\log_e\) が標準です。常用対数(底10)は、測定値の桁を扱うときなどに使います。

まず2つのグラフの関係を見ておきます。ここが分かれば、微分の導出はほとんど終わりです。

x y y = x (0, 1) (1, 0) y = e ᴺ y = ln x 互いに逆関数 y = x で折り返すと ぴったり重なる 点も入れ替わる (0,1) ↔ (1,0) → 傾きは逆数
\(y=e^x\) と \(y=\ln x\) は互いに逆関数なので、グラフは直線 \(y=x\) を鏡にして折り返した関係にあります。\(e^x\) 上の点 \((0,1)\) は \(\ln x\) 上の点 \((1,0)\) に移ります。折り返すと縦と横が入れ替わるので、対応する点での傾きは互いに逆数になります。\(e^x\) は \((0,1)\) で傾き 1、\(\ln x\) は \((1,0)\) で傾き 1(どちらも 1 で、逆数も 1)。\(x\) が大きいところでは \(e^x\) の傾きが急になるほど、\(\ln x\) の傾きは緩くなります。
まず自力で

\(y=\ln x\) とおくと \(x=e^y\)。この関係と \((e^y)'=e^y\) だけを使って \(\dfrac{dy}{dx}\) を求めてください。ライプニッツ記法の「分数のような振る舞い」\(\dfrac{dy}{dx}=1\big/\dfrac{dx}{dy}\) を使って構いません。

1逆向きに微分する
なぜ:\(x=e^y\) は \(y\) で微分できる形。求めたいのは \(dy/dx\) なので、いったん \(dx/dy\) を出して逆数を取ります。
\[ \frac{dx}{dy}=e^y=x \]
2逆数を取る
なぜ:グラフ的には、\(y=\ln x\) は \(y=e^x\) を直線 \(y=x\) で折り返したもの。折り返せば接線の傾きは逆数になります。
\[ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{dx/dy}=\frac1x\qquad\Longrightarrow\qquad \boxed{(\ln x)'=\frac1x} \]
3検算する
なぜ:グラフの形と符号を照合する。

\(x>0\) で常に正 → \(\ln x\) は単調増加 ✓。\(x\to\infty\) で傾き \(\to0\) → 増え方がどんどん緩やかになる ✓。\(x\to+0\) で傾き \(\to\infty\) → 原点近くで急降下 ✓。

具体的に値を入れると、\(x=1\) で傾き 1、\(x=e\) で \(1/e\simeq0.37\)、\(x=e^2\) で \(1/e^2\simeq0.14\)。増え続けるが、増え方は際限なく鈍っていく——上の図の緑の曲線がまさにその形です。

不思議な事実:\((x^n)'=nx^{n-1}\) を逆にたどると、微分して \(x^{-1}\) になるべき関数は \(n=0\) すなわち定数になってしまい、存在しません。この「べき関数の表の穴」を埋めているのが \(\ln x\) です。2章で \(\int\frac{dx}{x}=\ln|x|\) として再会します。

計算ドリル(§03・全1問)

問1\(x\) が 2 倍になったとき、\(\ln x\) はどれだけ増えるか。\(x=1\to2\) の場合と \(x=100\to200\) の場合で比べよ。そこから、対数がどんな性質を持つ関数だと言えるか。

自分の答えを出してから

どちらも同じだけ増えます。

\[ \ln 2-\ln 1=\ln\frac21=\ln 2,\qquad \ln 200-\ln 100=\ln\frac{200}{100}=\ln 2 \]

元の値がいくつであっても、同じ倍率なら同じだけ増える。これが対数の本質的な性質です。言い換えれば、対数は掛け算を足し算に変える関数(\(\ln(xy)=\ln x+\ln y\))だということ。

対数は「桁」を扱う道具

「同じ倍率なら同じだけ増える」という性質があるおかげで、対数は桁を測る目盛りとして使えます。地震のマグニチュード、音の大きさ(デシベル)、酸性度(pH)——どれも、値が何十倍・何千倍と変わる量を、扱いやすい幅に直したものです。

物理でも、桁が大きく違うデータを1つのグラフに並べて比べたいときには、軸を対数目盛りにします。たとえば星の明るさを表す「等級」も、対数を使って定められた量です。どれだけ違うかは、同じ関数を両方の目盛りで描いてみると分かります。

通常の目盛り 縦軸を 0〜10,000 で等間隔に 02,5005,0007,50010,000 01234 x x = 0〜2 が軸に張り付いて 1 と 10 と 100 を区別できない 対数目盛り 縦軸を 10 倍ごとに等間隔に 1101001,00010,000 01234 x 指数関数が直線になり、 どの値も読み取れる
指数関数 \(y=10^{x}\) を \(x=0,1,2,3,4\) について描いたものです(値は \(1,\,10,\,100,\,1000,\,10000\))。左の通常目盛りでは \(x=4\) の 10000 だけが目立ち、1・10・100 はどれも軸に張り付いて区別できません。右の対数目盛りは縦軸の 1 目盛りを「10 倍」に取ったもので、\(y=10^x\) はまっすぐな直線になります。両辺の常用対数をとれば \(\log_{10}y=x\) なので、縦軸に \(\log_{10}y\) を目盛れば直線になるのは当然です。逆に言えば、実験データを対数目盛りで描いて直線に乗れば「その量は指数関数的に変化している」と判断できます——対数目盛りが物理でよく使われる理由がこれです。
対数目盛りに 0 はありません。\(\log_{10}0\) が定義できない(下へ行くほど \(-\infty\) に向かう)ため、縦軸の下端は 1 や \(10^{-3}\) など適当な桁から始めます。各桁の間に入っている細い目盛りは 2, 3, …, 9 の位置で、間隔が詰まっていくのは \(\log_{10}2=0.30,\ \log_{10}3=0.48,\ \ldots\) と間隔が狭まるためです。市販の片対数グラフ用紙もこの目盛りです。
§04

積の微分と連鎖律 — 組み立ての規則

物理に出てくる関数は、たいてい基本関数の組み合わせです(\(e^{-\gamma t}\sin\omega t\)、\(\frac{1}{\sqrt{x^2+a^2}}\)、…)。部品の微分が分かったので、次は組み立ての規則を作ります。

4つの規則 \[ (f+g)'=f'+g',\qquad (fg)'=f'g+fg',\qquad \left(\frac fg\right)'=\frac{f'g-fg'}{g^2} \] \[ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}\qquad(\text{連鎖律}) \]

この4つを、上から順に片付けていきます。和は一瞬で終わるのでここで済ませ、積と連鎖律は自力で導いてもらい、商はその2つから作ります。

① 和の微分 — 分けて足すだけ

これは定義に入れれば自動的に出ます。分子が素直に2つに分かれるからです。

\[ \frac{\{f(x+h)+g(x+h)\}-\{f(x)+g(x)\}}{h} =\frac{f(x+h)-f(x)}{h}+\frac{g(x+h)-g(x)}{h}\ \xrightarrow[h\to0]{}\ f'+g' \]

同じ計算で、定数倍についても \((cf)'=cf'\)(\(c\) は定数)が出ます。「足し算とスカラー倍はそのまま通り抜ける」——この性質を線形性と呼び、微分を扱う上での基本になります。積と商がこんなに素直でないのは、次に見るとおりです。

② 積の微分 — 「片方だけ変える」を2回

まず自力で

定義から積の微分公式 \((fg)'=f'g+fg'\) を導いてください。分子 \(f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x)\) に「余計な項を足して引く」のが鍵です。

HINT 1

分子に \(-f(x)g(x+h)+f(x)g(x+h)\) を挿入(足して引く)。すると \(g(x+h)\) でくくれる組と \(f(x)\) でくくれる組に分かれます。

1足して引く
なぜ:\(f\) と \(g\) の変化を一度に扱えないので、「まず \(f\) だけ変えて、次に \(g\) だけ変える」と2段階に分けます。

まず、分子に \(f(x)g(x+h)\) を足して引きます(足して引くだけなので値は変わりません)。

\[ f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x) = f(x+h)g(x+h)\underbrace{-f(x)g(x+h)+f(x)g(x+h)}_{\text{足して引いた}}-f(x)g(x) \]

前半2項は \(g(x+h)\) でくくれ、後半2項は \(f(x)\) でくくれます。

\[ =\{f(x+h)-f(x)\}\,g(x+h)+f(x)\,\{g(x+h)-g(x)\} \]

こう並べると、第1項が\(f\) だけが変わった分、第2項が\(g\) だけが変わった分だと読めます。

\[ \underbrace{\{f(x+h)-f(x)\}\,g(x+h)}_{f\text{ の変化}}+\underbrace{f(x)\,\{g(x+h)-g(x)\}}_{g\text{ の変化}} \]
2\(h\) で割って極限
なぜ:それぞれが差分商の形になっています。\(g(x+h)\to g(x)\)(微分可能なら連続)を使います。
\[ \frac{f(x+h)-f(x)}{h}g(x+h)+f(x)\frac{g(x+h)-g(x)}{h}\ \xrightarrow[h\to0]{}\ f'g+fg' \]

③ 合成関数の微分(連鎖律)

これは自力で導くのが難しいので、意味と使い方を説明します。導出そのものは 1-1 の §03(導関数の定義)に戻れば追えますが、まずは「何をしている規則なのか」を掴むのが先です。

相手にしたいのは、\(\sin(\omega t+\varphi)\) や \(\sqrt{x^2+a^2}\) のように関数の中に別の関数が入っている形です。こういう関数を合成関数と呼び、\(y=f(g(x))\) と書きます。そして合成関数を微分するときに使う公式が連鎖律(chain rule)です。「合成関数の微分法」と呼ばれることもありますが、同じものを指しています。

まず、外側と内側に名前を付けて分解します。

\[ y=f(u),\qquad u=g(x) \]

たとえば \(y=\sqrt{x^2+a^2}\) なら、内側が \(u=x^2+a^2\)、外側が \(y=\sqrt u\)。このとき \(x\) が動くと \(u\) が動き、\(u\) が動くと \(y\) が動く——変化が2段階で伝わる伝言ゲームになっています。

連鎖律 \[ \frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx} \]

\(x\) が 1 増えると \(u\) は \(\dfrac{du}{dx}\) 増え、\(u\) が 1 増えると \(y\) は \(\dfrac{dy}{du}\) 増える。だから \(y\) は両者の積だけ増える。「増幅率の掛け算」と読むのが一番直観的です。

使い方は機械的です。外側を微分して、内側の微分を掛ける。3例を、分解から順に見ていきます。

例1:\(\dfrac{d}{dt}e^{-\lambda t}\)(\(\lambda\) は定数)

\[ u=-\lambda t,\qquad y=e^{u} \] \[ \frac{dy}{du}=e^{u}\quad(\text{外側}),\qquad \frac{du}{dt}=-\lambda\quad(\text{内側}) \] \[ \frac{dy}{dt}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dt}=e^{u}\cdot(-\lambda)=-\lambda e^{-\lambda t} \]

例2:\(\dfrac{d}{dt}\sin(\omega t+\varphi)\)(\(\omega,\varphi\) は定数)

\[ u=\omega t+\varphi,\qquad y=\sin u \] \[ \frac{dy}{du}=\cos u\quad(\text{外側}),\qquad \frac{du}{dt}=\omega\quad(\text{内側}) \] \[ \frac{dy}{dt}=\cos u\cdot\omega=\omega\cos(\omega t+\varphi) \]

例3:\(\dfrac{d}{dx}\sqrt{x^2+a^2}\)(\(a\) は定数)

\[ u=x^2+a^2,\qquad y=\sqrt u=u^{1/2} \] \[ \frac{dy}{du}=\frac{1}{2}u^{-1/2}=\frac{1}{2\sqrt u}\quad(\text{外側}),\qquad \frac{du}{dx}=2x\quad(\text{内側}) \] \[ \frac{dy}{dx}=\frac{1}{2\sqrt u}\cdot 2x=\frac{x}{\sqrt{x^2+a^2}} \]

「中身の微分を掛ける」のを忘れるのが最もよくある間違いです。\(\sin(\omega t)\) の微分は \(\cos(\omega t)\) ではなく \(\omega\cos(\omega t)\)。振動の問題で角振動数 \(\omega\) が消えてしまったら、まずここを疑ってください。

なぜライプニッツ記法が便利なのか

連鎖律をライプニッツ記法で書くと、右辺で分母の \(du\) と分子の \(du\) が約分されて左辺になるように見えます

\(\dfrac{dy}{dx}\) は本当は分数ではないので、これは厳密な約分ではありません。しかしそう見えるように記号が設計されているので、変数変換のときに式の形を追いかけやすくなります。物理でこの記法が好まれる理由がこれです。6章の多変数版、7章の変数変換で本格的に威力を発揮します。

④ 商の微分 — 積と連鎖律から作る

まず自力で 商の微分公式を導く

4つ目の規則

\[ \left(\frac fg\right)'=\frac{f'g-fg'}{g^2} \]

は、暗記する必要がありません。積の微分と連鎖律から作れます。\(\dfrac fg=f\cdot g^{-1}\) と見て導いてください。

HINT 1

まず \(\left(g^{-1}\right)'\) を連鎖律で求めます。\(u=g(x)\)、\(y=u^{-1}\) と置けば \(\dfrac{dy}{du}=-u^{-2}\)。

HINT 2

それが出たら、あとは \(f\cdot g^{-1}\) に積の微分を当てるだけ。最後に分母を \(g^2\) で通分します。

1\(1/g\) の微分を連鎖律で出す
なぜ:割り算は「\(-1\) 乗を掛ける」ことなので、\(g^{-1}\) の微分が分かれば積の微分に持ち込めます。
\[ \left(g^{-1}\right)'=\frac{d}{du}\left(u^{-1}\right)\cdot\frac{du}{dx}=-u^{-2}\cdot g'=-\frac{g'}{g^2} \]
2積の微分を当てる
なぜ:\(\dfrac fg\) は \(f\) と \(g^{-1}\) の積です。
\[ \left(f\cdot g^{-1}\right)'=f'\cdot g^{-1}+f\cdot\left(-\frac{g'}{g^2}\right)=\frac{f'}{g}-\frac{fg'}{g^2} \]
3通分して整える
なぜ:分母を \(g^2\) に揃えるだけです。
\[ \frac{f'}{g}-\frac{fg'}{g^2}=\frac{f'g-fg'}{g^2}\quad ✓ \]

分子の順番(\(f'g-fg'\))は符号を間違えやすいところですが、こうして導けば覚える必要がありません。検算するなら \(f=1\) と置いてみてください。\(\left(\frac1g\right)'=\dfrac{0\cdot g-g'}{g^2}=-\dfrac{g'}{g^2}\) でステップ1と一致します ✓。

計算ドリル(§04・全3問)

問1次を微分せよ。(a) \(x^2e^{-x}\) (b) \(\dfrac{\sin x}{x}\) (c) \(e^{-\gamma t}\cos\omega t\)(\(t\) で微分)

自分の答えを出してから

(a)

\[ (x^2)'e^{-x}+x^2(e^{-x})'=2xe^{-x}-x^2e^{-x}=x(2-x)e^{-x} \]

\(x=2\) で 0 → ここが極大。マクスウェル分布や黒体輻射のピークを求める計算がこの形です。

(b)

\[ \dfrac{(\sin x)'x-\sin x\cdot(x)'}{x^2}=\dfrac{x\cos x-\sin x}{x^2} \]

これは単スリット回折の強度に現れる関数(sinc関数)。極値の条件 \(x\cos x=\sin x\) すなわち \(\tan x=x\) が、回折の副極大の位置を決めます。

(c)

\[ (e^{-\gamma t})'\cos\omega t+e^{-\gamma t}(\cos\omega t)'=-e^{-\gamma t}(\gamma\cos\omega t+\omega\sin\omega t) \]

減衰振動です。5章で、これが \(m\ddot x+\gamma'\dot x+kx=0\) の解であることを確かめます。

問2連鎖律を使って次を微分せよ。(a) \(\sin(\omega t+\varphi)\) (b) \(\sqrt{x^2+a^2}\) (c) \(\dfrac{1}{\sqrt{x^2+a^2}}\)

自分の答えを出してから

(a) \(u=\omega t+\varphi\) として \(\cos u\cdot\omega=\omega\cos(\omega t+\varphi)\)。中身の微分 \(\omega\) が外に出るのを忘れないこと。

(b) \(u=x^2+a^2\) として \(\dfrac{1}{2\sqrt u}\cdot2x=\dfrac{x}{\sqrt{x^2+a^2}}\)。

(c) \(u^{-1/2}\) の微分は \(-\frac12u^{-3/2}\)、これに \(u'=2x\) を掛けて \(-\dfrac{x}{(x^2+a^2)^{3/2}}\)。

(c) の形は電磁気学で必ず出ます:軸上の点電荷のポテンシャルから電場を出す計算がまさにこれで、\((x^2+a^2)^{3/2}\) という分母はクーロンの法則を成分に分解した痕跡です。

問3連鎖律を使って、任意の実数 \(\alpha\) について \((x^\alpha)'=\alpha x^{\alpha-1}\) を示せ(\(x>0\))。ヒント:\(x^\alpha=e^{\alpha\ln x}\)。

自分の答えを出してから
\[ (x^\alpha)'=\left(e^{\alpha\ln x}\right)'=e^{\alpha\ln x}\cdot\frac{\alpha}{x}=x^\alpha\cdot\frac{\alpha}{x}=\alpha x^{\alpha-1} \]

これで 1-1 の §04 で自然数についてだけ示した公式が、負の数・分数・無理数を含むすべての実数 \(\alpha\) に拡張されました。1-1 の §04 問2・問3の結果も自動的に含まれています。

物理では \(r^{-2}\)(クーロン力)、\(r^{-3}\)(双極子)、\(T^{1/2}\)(熱速度)、\(r^{3/2}\)(ケプラーの第3法則)といった非整数のべきが日常的に出てきます。この1行でそれらすべてが扱えるようになりました。

転用

連鎖律は6章で多変数の場合 \(\dfrac{d f(x,y)}{dt}=\dfrac{\partial f}{\partial x}\dfrac{dx}{dt}+\dfrac{\partial f}{\partial y}\dfrac{dy}{dt}\) に拡張され、そこでエネルギー保存則の導出に使われます。また2章の置換積分は、連鎖律を逆向きに読んだものです。この節の内容は、以後ずっと使い続ける道具です。

§05

総合演習:物理の式を微分する

狙い

ここまでの道具を、物理の式に対して通しで使います。計算練習であると同時に、この先の章で何が起きるかの予告編にもなっています。

問1振動する物体の位置が \(x(t)=A\sin(\omega t+\varphi)\) で表されている(\(A,\omega,\varphi\) は定数)。速度 \(v=\dfrac{dx}{dt}\) と加速度 \(a=\dfrac{dv}{dt}\) を求めよ。

自分の答えを出してから

どちらも連鎖律を使います。内側 \(u=\omega t+\varphi\) の微分 \(\omega\) が、微分のたびに前に出てきます。

\[ v=\frac{dx}{dt}=A\omega\cos(\omega t+\varphi) \] \[ a=\frac{dv}{dt}=-A\omega^{2}\sin(\omega t+\varphi) \]

最後の式の \(A\sin(\omega t+\varphi)\) は \(x\) そのものなので、こうも書けます。

\[ \boxed{\ a=-\omega^{2}x\ } \]

「加速度が位置に比例し、符号が逆」という関係です。この式が何を意味するか(どんな力が働いているか)は力学のセクションで扱います。またこの問題は論理を逆にも読めます——「\(a=-\omega^2x\) を満たす関数は何か」と問えば、答えが \(\sin,\cos\) だと分かる。これが5章の微分方程式の考え方です。

問2口頭試問形式:次の3つを、公式を見ずに自分の言葉で説明せよ。
①微分とは何を測る操作か、定義式とともに。
②なぜ \(e\) という数が選ばれたのか。
③ラジアンの定義と、物理で角度をラジアンで測る理由。

自分の答えを出してから

入力の微小変化に対する出力の変化の割合=瞬間の変化率。有限区間の平均変化率 \(\frac{f(x+h)-f(x)}{h}\) をつくり、区間を縮める極限 \(h\to0\) として定義する。図形的には接線の傾き。

どんな底でも \((a^x)'=C_a\,a^x\) と「自分自身の定数倍」になる。その余計な係数 \(C_a\) が 1 になる底を選べば \((e^x)'=e^x\) と最も簡単になる。その底を \(e\) と名づけた。2.718… は結果であって出発点ではない。

扇形の面積が \(\frac12r^2\theta\) と書けるのはラジアンのときだけで、そこから \(\sin h/h\to1\) が出る。度を使うと微分のたびに \(\pi/180\) が付き、微分を重ねるほど余計な係数が積み重なる。ラジアンは微分が最も簡単になる角度の測り方

この3つが澱みなく言えれば、この記事は通過です。特に②と③は「公式の暗記」と「原理からの理解」を分ける問いなので、翌日にもう一度、何も見ずに再現してみてください。

到達

ここまでで「三角関数(§01)→ 指数関数(§02)→ 対数関数(§03)→ 組み立ての規則(§04)」という階段を登りました。1-1 で作った定義と合わせれば、学部物理に出てくる関数はひととおり微分できる状態です。公式の一覧を覚えているかではなく、この流れを白紙から再構成できるかを確認してください。

§06

チェックリストと次回予告

この記事で答えられるようになるべき問い

最終チェック
  • ラジアンの定義(弧長÷半径)を言えるか。扇形の面積を \(\tfrac12r^2\theta\) と書けるか(§01)
  • \(\sin\theta/\theta\to1\) を面積の挟み撃ちで示せるか(§01)
  • \((\sin x)'=\cos x\) を加法定理と \(\sin h/h\to1\) から導けるか(§01)
  • 物理で角度をラジアンで測る理由を言えるか(§01)
  • \(e\) の定義を「微分しても形が変わらない底」として説明できるか(§02)
  • \((a^x)'=C_aa^x\) の \(C_a\) が \(\ln a\) になる理由を言えるか(§02)
  • \((\ln x)'=1/x\) を逆関数から出せるか(§03)
  • 積の微分を「足して引く」で導けるか。長方形の面積の増分として図で説明できるか(§04)
  • 入れ子の関数を分解して、連鎖律を当てられるか(§04)
  • \(x=A\sin(\omega t+\varphi)\) を連鎖律で2回微分して、速度と加速度を出せるか(§05)

次節(2-1 積分の基礎)への接続

この記事では、「その瞬間の変化」を取り出すために微分という道具を作りました。次に知りたくなるのは、その逆です——変化のしかたが分かっているとき、元の量はどうなっているのか。この復元の操作が積分です。

たとえば運動方程式が与えるのは加速度、つまり変化率のほうです。そこから速度や位置を知りたければ、微分を逆向きにたどる必要があります。物理では、微分と積分は必ずセットで使うことになります。

2-1 で扱う問い(予習用)
  • 「細かく切って足す」(区分求積)としての定積分とは何か
  • なぜ「足し算」の答えが「微分の逆」で求まるのか(微積分学の基本定理)
  • 置換積分は連鎖律の裏返し、部分積分は積の微分の裏返しであることの確認

鍵となる一言:微分と積分は別々の技術ではなく、同じ関係を逆向きに読んだもの。この記事で作った公式表は、そのまま積分の公式表として読み直せます。

学習サイクルの推奨手順

  1. 解答を開かず、紙で挑戦。詰まっても5分は粘ってください。詰まるのは失敗ではなく、まだ腑に落ちていない一点が表に出た合図です。そこを自分の手で越えた経験が、そのまま次に進む力になります。
  2. ヒントを1つずつ開き、詰まりが解けたら閉じて自力で続行。
  3. 導出の「なぜこの変形をしたか」を自分の言葉で再現する。計算の再現ではなく論理の再現を目標に。
  4. 翌日、何も見ずに §05 問2(口頭試問)を再現する。
  5. それができたら、教科書や問題集の微分計算を解く。この記事を終えた人にとって、それはもう作業です。
この教材の立ち位置

本章は物理で使うための微分に絞っています。厳密性を求める場合に必要な、\(\varepsilon\)-\(\delta\) 論法による極限の定義、連続と微分可能の関係、平均値の定理、一様収束などには踏み込んでいません。それらは数学科向けの解析学の教科書の領域で、学部物理の計算をする上では、なくても困りません

ただし「困らない」のは計算をするときの話です。もし将来、場の量子論や一般相対論で「この極限操作は正当か」と問う場面に出会ったら、そのときに戻ってくれば十分です。

Academic Gate / 物理数学I 1章 微分 / 1-2「物理でよく使う関数の微分」。演習問題は本教材独自の構成です。続編:2章 積分 / 2-1「積分の基礎」。